Little AngelPretty devil 
      〜ルイヒル年の差パラレル 番外編

     “春待ちの雨”
 


殺風景な庭がますますのこと寂れる冬場に、
せめてもの眼福をとでも思うたものか。
確か、侍従殿がこそりと植えたんじゃなかったか、
手入れも雑だが、
それでも毎年絶えることなく咲いている、
さざんかの赤がいやに鮮やかで。
その足元にうずくまっているサツキの茂みも、
心なしか緑に張りが出て来たような。

 “雨に濡れているからかも知れぬがな。”

この時期は冷たい雨とぬるい雨が交互に降るが、
今日のは ぬるい方であるらしく。
須磨の方ではスイセンが咲いたとか、
梅に蕾が膨らみ始めているとかいう声もあちこちから聞こえ、
師走の初めから厳寒が襲った冬だったが、
そろそろ春の兆しも見受けられるというところか。

 “そんでも まだまだ寒いけどな。”

雪の日ほどじゃないとはいえ、
お天道様のない日はさすがに冷え冷えとするので。
濡れ縁代わりにしている、
板張りの広間の大きな間口の端っこなんぞに
何の用意もないまま座しておれば、
たちまち向こう脛から冷たくなる。

 「…というのが判っておって、
  何で懲りぬかな、お前は。」

きっちり座っておればそうでもないものが、
それでなくとも、行儀悪く胡座をかく蛭魔なので。
たとい筒袴をはいていても、
寒気にさらされるところが多くなっての、
冷えるのも道理…という理屈くらい、
ちゃんと判っておろうにと。
すぐ傍らに腰を下ろしつつ、
慣れた手際で苦もなくのこと、
術師の青年の痩躯をひょいと抱えると、
自身の懐ろへ掻い込んでしまう蜥蜴の総帥殿であり。

 「……っ
 「………。」

  いきなりどういう無礼を働いてるかな、お前はよ。
  どうせこう落ち着くんだ、時間の無駄を省いて悪いかよ。

そんなような意志を込めたる睨み合いが、何合かあってののち、

 「………。///////」

抱えられて間近になった男臭いお顔や、
衣紋越しとはいえ、
しっかとした筋骨の感触の中へとくるみ込まれたことから、
そのまま染みて来た温もりが。
今日のところはそれなり寒かったこともあってか、
いつもなら間髪入れずで飛び出すはずの、
お馴染みな毒舌への思わぬ抑制にもなったようで。
チッという舌打ちが聞こえて来そうなお顔になりつつも、
蛭魔の方が視線を先に逸らしてしまったので、
総帥殿の勝ちというところかと。

  寒いんなら袷を重ねればよかろうによ。
  うっせぇな。重いんだよ、もさもさ着ると。

会話だけなら十分“喧嘩腰”だけれど、
もしもお隣なんぞに居合わせたなら、
切れ長の双眸、どちらも逸らさずに。
お顔がくっつき合いそうなほど間近になっての言い合いは、
惚気合いにしか見えないほどで。
殊に、毒のあるお言いようをしている術師殿。

  鬱陶しいなら とっとと突き放せばいいものが。

すっぽりと収まっている相手の広い懐ろを
あますことなく確かめるよに、
もぞもぞと身じろぎしてみているし。
相手の襟元を直したいか乱したいか、
自分の細い指先でいじっていたかと思や、
そのまま凭れる所作に紛れさせ、
首元の素肌へ頬をちょんっと当てては
直の温みを堪能しているし。
総帥様の方でも方で、
蛭魔のそんな素直じゃあない反応なのを、
気づいているやらいないやら。

  爪先や肩口がはみだしてやいないかと。

さりげなく大ぶりな手を回しちゃあ、
すりすり確かめておいでだったりし。
ああもう、何でこうも薄いの着てるかな。
肉付きまともに探れんじゃねぇかと
その辺りを案じているようでは、
やらしい、もとえ疚しい触りようではないものだからか。

  “なんか眠いぞ。”

どっちが冬眠種族なのやら、
雨音さえ子守歌になるほどの、じんわり優しい温みに包まれ。
うとうとしかかる昼下がり。
やっぱり春は間近なようです。






   〜Fine〜  13.02.18.


  *暖かい雨の日はいいんですが、
   みぞれと変わらないほど冷たい雨は気が滅入りますよね。
   今日のはそうでもなさそうですが、
   でもでも関東のほうは寒いとか。
   油断なさらず、ご自愛くださいませ。


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